近年、財産の多い少ないにかかわらず、相続時の遺産分割をめぐる相続人間の争いが増えています。
相続財産が被相続人の住んでいた自宅だけだったとしても、各相続人が民法にもとづく法定相続分を主張して、配偶者の終の棲家と考えていた自宅を売らねばならないという話も耳にします。
相続人同士の遺産分割協議が円滑に進めば、遺言がなくても問題なく相続手続きを終える場合もあります。
しかし相続人同士が争い、その後の人間関係にしこりを残すことも多く見受けられます。
こういった問題は、遺言が作成されていさいすれば全て回避できたことなのです。
遺言によって自身の意思を相続人に伝える
相続では、法定相続よりも遺言による相続が優先されるという大原則があります。
遺言によって被相続人の意思が明確にされていれば、相続争いを防ぐことも、相続手続きそのものをスムーズに進めることもできます。
また、遺言によって相続権のない人に財産を譲ることもできます。
ご自身の財産を今後どのように管理し、そして相続につなげるか、今後の方針をご自身で整理する意味でも、遺言を作っておくことをお勧めします。
また、法的な効力はありませんが、「付言」として、遺言に自分の気持ちや希望など、相続人へのメッセージを書いておくこともできます。
遺言はいつまでに作成するべきか
自分はまだ元気だから、遺言はまだ書かなくていいだろう。
このように考える方は非常に多いと思います。多くの人は遺言を書くことに心理的な抵抗感があるものです。
しかし、いつか遺言の作成をと思っていても、なかなか作成するきっかけは掴めないものです。
体調面で不安が出てきたから、70歳になったから、などといったきっかけで始めるのもひとつですが、遺言書を作成するのに早すぎるということはありません。
思いついたときに作成しないと、日常的な諸事に追われている間に結局作成することなく生涯を終えてしまうことになりかねません。
また、事件や事故に限らず、自然災害やコロナ禍のようなパンデミックはいつ起きてもおかしくありません。
さらに遺言は、認知症になると作ることが難しくなりますし、作成したとしてもその有効性が争われることがあります。
そのため、判断能力のハッキリしている現時点で、思いついた瞬間が遺言を作成するタイミングといえます。
遺言を作っておいた方がよいケース
例えば下記のように、相続関係が複雑である場合、相続財産に偏りがある場合などで、自身の死後にトラブルが予想されるケースなどは、ぜひ遺言を作成しておきましょう。
①夫婦間に子供がいない場合
自身の配偶者に全財産を相続させたい場合、その旨を遺言に記しておけば安心です。
ここでは遺留分が問題となりますが、被相続人の父母が相続人の場合は、遺留分を主張した場合でも、配偶者には全財産の6分の5を相続させることができます。
被相続人の兄弟姉妹が相続人の場合は、遺留分は認められておらず、全財産を配偶者が相続できます。
②相続関係が複雑な場合
再婚をしていて、現在の妻にも先妻にも子供がいる場合などで、子供に法定相続分とは異なる相続をさせたい場合は、無用な争いを避けるためにも、遺言で相続分や財産の分割方法を指定しておきましょう。
③認知した子がいる
婚姻関係のない男女間の子で、父が自身の子と認めることを認知といい、その子のことを非嫡出子といいます。
非嫡出子の法定相続分は、婚姻関係のある男女間で生まれた子(嫡出子)と同じです。
この場合も法定相続分と異なる相続としたい場合には、無用な争いを避けるためにも、遺言で相続分や財産の分割方法を指定しておきましょう。
④相続権のない人に財産を譲りたい
例えば内縁の妻などは、法律上の婚姻関係にないため相続権はありません。
また、自分には子供がいるが、相続権のない兄弟姉妹にも財産を渡したいケース。
なにかと世話になった知人や、自分の子供の配偶者。
こういった相続権のない人たちに対しても、遺言があれば財産を譲ることができます。
⑤事業を経営している人
相続人のうちの一人を後継者として事業を円満に継続してもらいたいときは、遺言で経営の基礎となる土地や店舗、農地、会社の株式などを、その人が相続できるようにしておきましょう。
⑥相続財産のほとんどが不動産の場合
相続財産のほとんどが不動産の場合、不動産は簡単には分割できないため、相続人同士が揉める可能性が高くなります。
相続財産に預貯金があれば、不動産を相続しなかった人には預貯金を渡せばよいですが、それが十分にないと話し合いがつかない可能性がありますので、遺言で予防しておきましょう。
遺言に関するご相談
遺言はなぜ作成すべきか、どのタイミングで作成すべきかについて説明させていただきました。
遺言は作成しておいたほうが、相続が円滑に進み、相続人の負担が激減します。
当事務所では、公正証書遺言や自筆証書遺言作成のお手伝いをしております。
皆様に寄り添い、問題解決のお手伝いをさせていただきます。