相続手続きを行ううえで重要なのは、被相続人の財産の帰属先を決めることです。相続財産の帰属先が決まれば、後の手続きは比較的スムーズに進めることができます。
相続財産の帰属先を決める手段としてもっともよいのは、被相続人の生前に遺言書を作成してもらうことです。
遺言があり、遺産の分け方を指定している場合には、遺留分などの制限がない限り、その記載内容に従うことになります。
しかし、遺言書がない場合には、相続人同士で相続財産の帰属先を決めなければなりません。この話し合いを遺産分割協議と呼びます。
遺産分割協議が不要なケース
遺産分割がなぜ必要なのかを説明する前に、遺産分割協議自体が不要なケースを以下に挙げさせていただきます。
①相続人が1人である場合
相続人が一人であれば、相続財産はその相続人お一人が承継しますので、ほかの相続人と協議を行う必要はありません。
②遺言書のとおりに相続する場合
遺言書が存在し、その内容に従って相続財産を分割するのであれば、遺産分割協議の必要性がないため、遺産分割協議書も必要ではなくなります。
③遺産を法定相続分で相続する場合
民法で定められている法定相続分で不動産や預貯金を相続する場合も、遺産分割協議の必要はありません。
④相続対象となる遺産がない
被相続人が遺産を有していなければ、そもそも相続が発生しないため遺産分割協議が起こらず、遺産分割協議書を作成する必要もなくなります。
遺産分割協議の必要性
相続人が複数いる場合に、遺言書がなくても民法で法定相続分が定められているのに、なぜ遺産分割協議が必要なのかという理由を説明します。
その大きな理由は、被相続人の財産の帰属先を定めることで、後日発生する可能性のある紛争を未然に防ぐことです。
被相続人の財産は、相続人の共有財産となります。たとえば、被相続人の財産が不動産であった場合には、相続人全員がその不動産を共有する権利を持ちます。
しかし、遺産分割協議をせぬままその不動産を売却する場合、不動産の共有者である相続人全員の一致が必要となります。
そのため、相続人の人数が多ければ、不動産を売却する必要がでてきた場合、話し合いがうまくいかず売却困難となるおそれがあります。
さらに、相続人も年月の経過とともに死亡し、相続人らにさらに相続が発生します。
このように、世代をこえて相続の権利は続くので、遺産分割協議を行わないでいると、相続人の人数が限りなく増えていきます。
その結果、時間が経てば経つほど、遺産分割協議がより困難なものとなっていきます。
遺産分割の方法
遺産分割の方法は、以下の3つの方法があります。
①現物分割
②代償分割
③換価分割
①現物分割は、相続財産を現物のまま相続人に分配する分割方法です。
例えば、「自宅不動産は妻に」「A銀行の預貯金は長男に」「B銀行とC銀行の預貯金は長女に」といった具合に遺産を分配します。
相続財産の形を変えたくない場合や、相続人それぞれが受け取りたい財産が決まっている場合に有効な方法です。
相続人に現物のまま分配するので手続きとしては簡単ですが、この方法では遺産を相続人に公平に分配することは難しく、ある程度の割り切りは必要です。
②代償分割は、相続財産を一部の相続人が引き継ぎ、他の相続人には、本来受け取るべきであった法定相続分の財産価値を現金で支払う分割方法です。
例えば、「妻が土地と建物を引き継ぐ代わりに、長男及び長女には、妻の預金から金銭を支払う」というものです。
この場合、遺産を引き継ぐ相続人がその分の支払い能力があればよいのですが、資力がない場合はこの方法が使えなくなってしまいます。
なお、金銭の支払いは一括支払いが原則ですが、分割払いと定めることも可能です。
③換価分割は、相続財産を売却することにより金銭に換え、その金銭を相続人の間で分ける分割方法です。
遺産を金銭に換えるため、相続人間で分配する割合を決めてしまえば、あとは金銭を分けるだけなので簡単です。そのため、現物分割をすることが難しい場合に有効な方法です。
しかし、その売却益に対して譲渡所得税や住民税が課税されるため、その分配時期等に注意が必要です。
遺産分割協議の注意点
遺産分割協議を行うにあたっては、守らなければならない注意点がいくつかあります。
まずは遺産分割協議が有効に成立するためには、相続人全員の同意が必要であるという点です。
被相続人の出生から死亡に至るまでの戸籍を取得する相続人調査において、見知らぬ相続人がいたことが判明した場合は、その人物も含めて遺産分割協議せねば無効となってしまいます。
また、相続人の中に未成年者がいる場合には、家庭裁判所に特別代理人を選任してもらうよう申立てを行う必要があります。この場合、特別代理人が未成年者に代理して遺産分割協議に参加します。
たとえば、父親がなくなり、母親と未成年の子どもが相続人となった場合などには、未成年の子どもを代理して遺産分割協議を行う特別代理人が、子供一人にそれぞれ一人ずつ必要となります。
遺産分割協議の中では、母と子は互いに対等の相続人として利益相反者とされます。そのため、母親はたとえ親権者であっても子どもを代理することはできません。
相続人の中に行方不明者がいる場合は、不在者財産管理人の選任の申し立てをして、選任された不在者財産管理人が遺産分割協議に参加することとなります。
相続人の中に認識能力が低下している人がいる場合には、能力の低下の度合いにもよりますが、原則として、家庭裁判所に対して後見人選任の申し立てを行う必要があります。
なお、後見人を交えた遺産分割協議では、被後見人(認識能力が低下した人)が不利益になるような合意をすることはできません。被後見人には、結果として法定相続分以上の財産が分割されるような合意を行う必要があります。
遺産分割協議書の作成
遺産分割協議が成立したら、その成立を証明するために遺産分割協議書を作成しましょう。
遺産分割協議書の作成は義務ではありませんが、後の証拠にもなりますし、不動産や預貯金を相続人全員で合意したとおりに名義変更・口座解約の手続きをする際に必要となります。
遺産分割協議書には、不動産であれば、登記事項証明書のとおり、所在や地番などを正確に記載します。また、銀行預金は銀行名、支店名、口座番号などを正確に記載しましょう。
そしてそれら相続財産を、誰がどの割合で引き継ぐのかを明記します。
最後に、相続人全員が署名・実印を押印し、印鑑登録証明書と共に保管します。
遺産分割協議に関するご相談
遺産分割協議について解説しましたが、いかがでしたでしょうか。
遺産分割協議は時として大変な労力を使う可能性がありますので、困ったときには専門家に相談することをお勧めします。
当事務所では、遺産分割協議書の作成、相続登記手続き、預貯金の相続手続き、相続放棄手続きなどのお手伝いをしております。
皆様に寄り添い、問題解決のお手伝いをさせていただきます。